映画について Tucker: The Man and His Dream

今から60年ほど前に歴史をさかのぼります。子供の頃から自分の理想の車を作ることを夢見ていた男がいました。その男の名は「プレストン・トマス・タッカー」世界に50台しかない幻のスーパーカー「タッカー・トーピード」を作ります。その車は、現代の車の原型を作ったと言われています。

その頃、自動車業界はフォード、GM、クライスラーのBIG3は世界No1のシェアを誇っており、第二次世界大戦後のアメリカ経済を支えていました。フォードの財務を担当していたロバート・マクナマラはその後、社長に就任して瞬く間にジョン・F・ケネディに招致され国防長官となりました。その後、GMの社長チャールズ・E・ウィルソンも同様に国防長官を歴任しています。クライスラーこそ政治との関わりが面だってありませんが、第二次世界大戦で軍用車両を供給していた兼ね合いで国や軍部とのつながりは深かったと思えます。このような国と民間企業が、悪い言葉で言えば癒着していた時代に、自動車産業にInovationを起こす革命児が誕生しました。いつの時代だってInnovatorは保守派からは手痛くやられるものですがプレストン・トマス・タッカーも例外ではなかったようです。

タッカーは交通事故の悲惨さに着目してドライバーの安全性を考慮した車を作りました。つい最近になって自動車の安全性には2つの側面で考えられるようになりました。事故を起こしても被害を最小限にするPassive Safetyと、そもそも事故を起こさないようにする ActiveSafetyについてです。タッカーは60年前にPassive Safetyとしては世界で初めてシートベルトの採用したり、衝突性能を考慮したクラッシャブルボディー等を開発しました。そして、ActiveSafetyとしてはディスクブレーキによる制動性能の大幅な向上と、サイクロップス・ライト中央のライトが進行方向を照らし出し夜でも安全に走行できるよう配慮しました。この時代はようやく、フォードによるT型フォードの大量生産モデルからGMの多品種少量生産でデザインの多様化により顧客のニーズに応えることが重要視され始めた頃でした。映画ではタッカーが、ボディーカラーを良き支援者の妻に相談してカラーラインナップにとりいれたりしていました。そんなタッカー独自の人に優しい車の発想は、タッカーの人に対する思いやりを感じると同時に、交通事故の悲惨さを直視する鋭さを感じます。

時代を切り開き、子供の頃からの夢だった魅力のある車を作り出したタッカー。しかし、それを脅威に感じた当時のBIG3(フォード・GM・クライスラー)は、実際には無い車を売りつけようとしている詐欺師としてタッカーを訴えます。でも、実はBIG3は互いに結託して、車の製造に必要な部品や材料の供給をストップさせてしまうのです。更に政治家などにも力を借りて、裁判を有利に進めるように働きかけました。しかし、タッカーはどんな妨害にもあきらめずに裁判の公判ギリギリまでに50台も生産し、車が列を成して走っているところを実証して見せました。そして、見事タッカーはBIG3を相手に裁判を勝ちとります。しかし残念ながらアメリカ政府によって工場を閉鎖させられてしまいます。

そのときタッカーが裁判でこう言いました。「もし、そうなった場合、我々、アメリカ国民は、よその国の車を買うことになるんだ 」

今頃、天国にいるタッカーは淘汰されて行くBIG3を見てなんと思っているでしょうか。多分彼なら、こんなことを言うのではないでしょうか?

「チャンスならいくらでもある。こんどこそ来るべき時代にふさわしい車を作ればいいんだ」

タッカー・トーピードの性能

後部へのエンジンマウント (リアエンジン) ディスクブレーキ(63%ものブレーキ力の向上) ティングース・ノーズ(空力学の採用) スリー・ボックス・シート(安全性の向上) サイクロップス・ライト(中央に3つめのライトがあり、ハンドルと連動して進行方向を照らした) シートベルトの採用(人間の体を守る) フロントのクラッシャブル性(衝撃の緩和) フロントシート前の待避エリア(衝突の際同乗者を守る) 埋め込み式内部ドアハンドル(ケガ防止) 脱落式ミラー(同上) フロント・スクリーン・ガラスの前方脱落(内側からの100ポンド以上の圧力で外へ外れる) 

Wikipedia タッカー・トーピード

学生の頃に出会った映画ですが、今でも判断に迷う時にタッカーだったらどうしただろうと思いを巡らせます。

投稿者: 二本松 哲也

SPbD:Security&Privacy by Design Founder ー OWASP Member ー ITは人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること ー 競争原理から共創原理へ