なぜパーパスは「浸透」しないのか

パーパスを定めたものの、社員に浸透しない、効果が分からない、という問題を見聞きします。これについて、パーパスの考え方を生んだと言われる、エミール・デュルケームの社会的実在論から、ひもといていきます。

なぜパーパスは「浸透」しないのか

エミール・デュルケームによれば、人々はより専門化された仕事に従事し、互いに依存することで社会が成り立っています。明文化されていないだけで、このような社会的連帯にパーパスが存在しています。そこにアプローチ(協調)しない限り、浸透しないと思います。


社会的実在論

エミール・デュルケームは、社会学の創設者の一人として広く認識されています。彼の社会的実在論は、社会学理論における中心的な考え方です。この理論の核心は、社会が個人よりも先に存在し、それ自体が独自の実在性を持つという考え方にあります。

デュルケームは、社会を一種の客観的実在と見なしました。彼によれば、社会は個々の人間の集合以上のものであり、独自の特性、規則、構造を持つと考えられます。この観点から、デュルケームは社会的事象を研究する際には、それらを個々の人々の行動や意識から独立した現象として扱うべきだと主張しました。

デュルケームの社会的実在論は、彼の著作『社会分業論』や『自殺論』において顕著に示されています。例えば、「社会分業」に関する彼の研究では、経済的・職業的な分業が個々の選択の結果ではなく、社会的な構造とプロセスによって形成されると主張しています。また、「自殺論」では、自殺率が社会的統合の度合いや規範の強さといった社会的要因によって異なることを示しています。

デュルケームの社会的実在論は、社会学の基本的な視点を形成し、後の多くの社会学者に影響を与えました。彼の理論は、個人主義的アプローチとは対照的に、社会的現象を理解するためには社会自体を分析の対象とすべきだという社会学の根本的な考え方を確立しました。


社会的構造としての役割を持つ


エミール・デュルケームの社会的実在論と企業の社会的存在意義(パーパス)との関連は、企業が単なる経済的実体以上のもの、すなわち社会的構造としての役割を持つという点で見ることができます。

社会的構造としての企業

デュルケームによれば、社会は個々の構成要素よりも大きな独自の実体です。この考え方をビジネスに適用すると、企業は単に利益を追求する組織ではなく、従業員、顧客、社会全体に影響を与える社会的構造として理解されます。企業は文化、価値観、社会的責任を形成し、反映します。

社会的統合の促進

デュルケームは社会的統合と規範の重要性を強調しました。企業は社会的統合を促進する役割を担い、労働者、消費者、そして広い意味での社会との間に関係を築きます。企業のパーパスは、単に商品やサービスを提供することだけでなく、社会的、文化的、環境的な目標に貢献することにより、この統合を促進することにあります。

社会的規範と行動のガイドライン

デュルケームは、社会的規範が個人の行動を形成し規制すると考えました。同様に、企業のパーパスは、その業務と従業員の行動に対する道徳的・倫理的なガイドラインを提供します。企業は、持続可能性、公正さ、多様性といった価値を通じて、より広い社会的規範を体現することができます。

集団意識の形成

デュルケームは集団意識の概念を提唱しました。企業のパーパスは、従業員や顧客に共有のアイデンティティと目的を提供し、集団意識を形成することに貢献します。これにより、企業は社会的一体感を強化し、より広いコミュニティにポジティブな影響を与えることができます。

総じて、デュルケームの社会的実在論は、企業が単なる利益追求の枠を超えて社会に貢献し、より大きな社会的役割を果たすべきであるという現代の企業のパーパスの考え方と共鳴します。企業は社会の一部として、その行動や方針が社会全体に影響を及ぼすという認識が重要です。


社会的な構造とプロセスによって形成される

エミール・デュルケームの『社会分業論』では、経済的・職業的な分業について深く探究しています。彼の主張は、社会の分業は単なる個人の選択や自然発生的な経済的過程の結果ではなく、より広い社会的構造とプロセスによって形成されるというものです。

社会的連帯の変化

デュルケームは、伝統的な農村社会の「機械的連帯」と、近代的な工業社会の「有機的連帯」の違いを指摘しました。機械的連帯では、人々は似たような仕事や生活をし、共通の価値観や信念によって結ばれています。一方、有機的連帯では、人々はより専門化された仕事に従事し、互いに依存することで社会が成り立っています。
分業が進む現代社会において、個人のキャリアや職業選択は、単に個人の興味や能力に基づくだけでなく、広い社会的背景や構造によって形成されるという視点を提供しています。

専門化と依存の増加

近代社会では、労働の分業が進み、人々は特定の技能や知識を持つようになります。この専門化は個々の能力や選択だけでなく、教育システム、産業の発展、市場の需要などの社会的要因によって形成されます。これにより、異なる職業や役割を持つ人々が互いに依存する関係が生まれます。

社会的規範と機関

社会の分業は法律、規範、機関などによって支えられます。例えば、教育制度は特定の職業に必要な技能や知識を提供し、職業団体や労働組合は労働市場を規制します。これらは個人の選択を超えた社会的な枠組みを提供し、分業を形成し維持します。

社会的一体感の変容

デュルケームは、分業が進むにつれて、人々は互いに異なるが故に、より強く結びつくと考えました。専門化による相互依存は、社会の結束を高める新たな形態を生み出します。つまり、分業は個々人の独立性を高めると同時に、社会全体としての結束を強化するパラドックスを含んでいます。


パーパスの形成

エミール・デュルケームの社会分業に関する考え方を企業のパーパス(目的)の形成に適用します。

社会的ニーズと要求

パーパスは、社会的なニーズや要求に応答する形で形成されることがあります。例えば、環境保護、社会正義、公平な雇用機会といった問題は、企業に対して特定の責任や役割を果たすことを要求します。これらは社会的な議論や価値観に基づいており、個々の企業の選択だけでなく、広い社会的文脈に根ざしています。

社会的相互作用と影響

企業は、消費者、従業員、株主、地域社会など、多様なステークホルダーとの相互作用の中でパーパスを形成します。これらの関係性は、企業の行動や方針に影響を与え、結果的にそのパーパスを形作る要因となり得ます。

時代の変化と社会的動向

時代の変化や社会的動向も、企業のパーパスに影響を及ぼします。経済的、技術的、文化的な変化は、企業がどのような価値を提供するか、どのような役割を果たすべきかに影響を与えます。例えば、デジタル化の進展や持続可能性への関心の高まりは、多くの企業がそのパーパスを再考するきっかけになっています。

社会的構造と役割

デュルケームの理論に基づけば、企業は社会の一部として、その構造と機能に影響を受けます。社会的分業によって生じる特定のニーズや問題は、企業がどのようなパーパスを持つべきかに影響を与える可能性があります。


まとめ

これらの視点から、企業のパーパスは、単に経営者の戦略的選択によって定められるものではなく、より広範な社会的構造とプロセスによって形成されるものと考えることができます。
分業が進む現代社会において、人々はより専門化された仕事に従事し、互いに依存することで社会が成り立っています。このような有機的連帯は、パーパスが明文化されていないだけで存在しています。
企業は、個々人の独立性が高まると同時に、社会全体としての結束が強化されるパラドックスに対処する必要があります。まずは、既存のパーパスを知ることから始め、社会的相互作用を分析し、関連性が高く、持続可能で、倫理的な価値を提供するために、パーパスの形成にアプローチ(協調)していくことが必要です。

投稿者: 二本松 哲也

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