スマートシティにおけるPrivacy by Designについて栗原氏との対談

邪悪にならなければよいといった考え方によってインターネット検索で成功したGoogle、その考え方をスマートシティに持ち込んだ時にSidewalk Labsの撤退につながったと感じます。
例えばインターネット検索における行動履歴をトラッキングしても社会は受け入れてくれるレベルでしたが。それをスマートシティにも適用しようとする感覚だったと思います。日本では内閣府(スマートシティ官民連携プラットフォーム)がスマートシティを推進しておりますが、スマートシティ・ガイドブックでプライバシーについて当然考慮されています。こうしたPrivacy by Designの考え方を広めていくにはどうしたら良いでしょうか。Privacy by Design Lab Co-founderの栗原氏にお話を伺いました。


栗原 去年ですがSidewalk Labsが上手くいかないと発表された時にレポート「スマートシティSidewalk Labsの失敗から学ぶ、プライバシーのある自由な社会」をまとめました。

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Interviewer, Translator 栗原宏平
Editor 今村桃子
Headline Image template author 山下夏姫

このプロジェクトにおける反省点から自分たちがPrivacy by Design Labとしてプライバシー バイ デザインによって社会実装を進めたいと考えています。仰る通りデジタル的なインターネット空間と物理的なフィジカル空間の接点をどうやって社会実装していくかがポイントだと思います。つまりフィジカル空間は人間が主体でありエモーショナルなものが優先されるのではないでしょうか。

「この町に住む理由とは何か」

栗原 Googleが良いと思っても、ここに住んでいる人に使ってもらえるスマートシティでなければ長期的には破綻してしまう。継続企業の前提として、例えば住民のプライバシーデータをGoogleが利用し続けるとしたら、住民がここに住み続ける理由は無いかもしれない。

二本松 では、プライバシーデータを利用される事において、具体的に住民が住みづらいと思う点は何でしょうか?

栗原 人によると思いますが制約が出てきます。例えばターゲティング広告で用いられるような年齢層や所得層などでプロファイリングされてしまう。そうすると所得によって待遇が異なることや、お店に行っても物が買えなかったり、そもそも情報が与えられないといった状況になるかもしれない。営利的な企業にとって広告戦略は必要なことだですが、住民への差別につながるかもしれない。

二本松 なるほど、今既にGoogleアドセンスでは検索結果に基づく広告配信が最適化されていますが、ダイレクトにスマートシティで実施されてしまう訳ですね。もしかしたらAIが発達して人の気持ちに寄り添えるレベルに到達するかもしれませんが、現段階では技術的に未熟だと感じます。

栗原 日本においては赤字路線を持つ鉄道会社など公共サービスとして維持し続けています。まさしく住民に寄り添っているわけですが、Sidewalk Labsに立ち返ると住民は戻ってこなかった。テクノロジーが公共サービスになり切れてない象徴だと思います。研究室にあるようなものを、テクノロジーの幻想を抱き当てはめてしまっています。

二本松 それは、世界中のスマートシティでこれから起こりうることではないでしょうか。Sidewalk Labsはプライバシーという切り口で問題が露見しましたが、本質的には営利企業と公共サービスのミスマッチが解決できなければならないと。今まさにSidewalk Labsの本質的な問題に気付かないまま、次のスマートシティに向かおうとしています。

栗原 検証が必要ですね。その点において住民と長い付き合いを持っていることが私たちの強みです。

二本松 少し話は飛躍しますが、お金は単なる紙切れですが信用力を仮想的に表しています。国の信用力が為替レートに反映されて円やドルが取引されますが、お金だけでなく信用力を利用してお金を借りる債券があり、それを他の金融商品と組み合わせた仕組債を作り、格付け機関の評価で信用力をかさ上げして、2007年頃にサブプライムローン問題が起こりました。これはテクノロジーの幻想(金融工学)がどんな失敗をもたらすか人類にとって良い教訓だったなと思います。スマートシティについては人が営む暮らしについて、どこまで検証できているのか疑問を感じます。
仮に世界中でスマートシティが実現したとして、様々なプライバシーデータを利用される中で個人の自由とは何かが問われるんじゃないかと。例えばリスクをとってチャレンジしたくても、監視されリスクを排除できる仕組みによって、社会全体が停滞してしまうかもしれません。

「テクノロジーと社会を良くすることを切り離して考えた方が良いのでは」

栗原 日本の国民全体の幸せと個人の幸せをテクノロジーを用いて同時に満たすことは難しい、仮にテクノロジーで全てのことが実現することは人間が不要になってしまう議論でもあります。つまりテクノロジーで幸せにするのではなく、幸せをどうやってテクノロジーで支えるのかといった発想が必要だと思う。スマートシティだけでなく医療についても。

二本松 プライバシー専門家のAnn Cavoukian氏も栗原さんも多面的なものの見方をしており、Googleに足りないものを補うことができると思う。もちろん他のスマートシティプロジェクトについてもですが。

栗原 常にパーフェクトではなく、生きてきた環境によるバイアスを理解しようとしてます。テクノロジーはカイゼンが伴いますが、カイゼンにもユーザー目線や技術目線といったバイアスがあります。更にカイゼンすることが目的となってしまう場合がある。自分がそれを体現できている訳では無いですが理解はしているつもりです。

二本松 うーん、Googleにとってテクノロジーのカイゼンは企業の使命かもしれませんね。

栗原 それを悪と言うつもりはありません、ただしGoogle経済圏では理解されることも、一歩外へ出てしまうと悪になりうる可能性もあるかと。多数の企業とデータ連携する事が果たして理解されるだろうかとか。

二本松 今後もデータ連携によって利便性が増していくことや、そこから収益につながることなどメリットは見えやすいと思います。一方で収益以外のことは見えにくいかもしれませんね。

栗原 スマートシティは収益がなかなか得られないと言われますが、だったらやらなくても良いと思う。つまりビジネスが破綻している。

二本松 つまり、何のためにやっているのか明確ではないスマートシティが多いですね。一方でトヨタが富士山の麓にウーブンシティを作りますが、スマートモビリティの社会を実現するためといった目的が明確で、情報から収益を得るGoogleとは対照的だと思います。

栗原 ものづくりにおいて工場の拠点となる町とのコミュニケーションは重要だと思います。豊田市など街づくりにおいて歴史がある会社の強みですね、昔は公害などの住民対策もあったと思います。別にスマートシティではなくても成功するとさえ感じます。

二本松 ソサエティー5.0によって、もはやこの流れは止められないでしょうね。しかしプライバシーの保護は誰かが言わなければならない。Cavoukian氏のように。より人に与える影響を考えなければならない。

Society 5.0では、フィジカル空間のセンサーからの膨大な情報がサイバー空間に集積されます。サイバー空間では、このビッグデータを人工知能(AI)が解析し、その解析結果がフィジカル空間の人間に様々な形でフィードバックされます。

www8.cao.go.jp

栗原 時代は変わってきており、Googleの収益も頭打ちだと思います。プライバシーも厳しくなる一方で罰金も高くなり、サイバー攻撃もされるためセキュリティ分野の人材や組織も必要だったり。広告による収益モデルもコモディティ化しているため、これ以上の市場拡大は見込めない。次はバーチャル空間からフィジカル空間へ移行していくでしょう。例えばアップルはプロダクトがあるためモノづくりの知見を持っています。トヨタは製造物の責任を負ってきたバックグラウンドがあります。

二本松 次に進めたことでSidewalk Labsの失敗があって良かったと感じます。それから、仰る通り最近ではセキュリティ対策にお金が掛かります。今年の2月にフロリダ州のオールズマー市で起こった飲料水処理プラントのハッキング事件は未遂で終わりましたが、住民の健康被害に関わるものでした。こうした対策には24時間監視するSOC多層防御ゼロトラストなど様々な施策が必要だと思います。

栗原 水処理施設の事故について、例えば「PSYCHO-PASS」という映画でも一つの脳で管理される街が描かれているのですが、脳が暴走した時に食料に毒を混ぜて住民を殺してしまうというリスクがある。こうした単一障害点の脆さがあると感じますね。

『PSYCHO-PASS サイコパス 3』から考える「法とテクノロジーの関係」と「人間としての在り方」

まだ見ぬテクノロジーによって、人々の考え方や行動がどのように変わるのかを見せてくれるのがSFの醍醐味だと筆者は考えているが、本シリーズはまさにその醍醐味が凝縮されている。

realsound.jp

二本松 テクノロジーの進化によって中央集権化して、いつの間にか単一障害点ができてしまうかもしれませんね。当初描いていたスマートシティから、人を軸にした多角的な考えが必要だと思います。Sidewalk Labsでは結果を求めて性急に進めてしまうことが失敗につながったと。

「収益源をきちんと決めた方が良いと思う」

栗原 スマートシティにおけるサービスを提供するのであれば対価を得た方が良いと思います。そこを無料にすることによって、プライバシーデータの取り扱いが曖昧になってしまう。もし無料にするのであればどこから収益を得るのか明確にすべきだと思う。これが継続企業の前提として必要であり、次にサービスを受けられない人がどうすればいなくなるのかといった発想が必要。サービスを利用していない人からプライバシーデータを得ることができない。つまりサービスが受けられない人を抜きにして街づくりが進んでしまう。公共サービスとしての街づくりと、試験的な街づくりに投資を行う2段階でよいのかなと思います。

二本松 収益源の問題ですが、特定の企業に依存関係が生じてしまい、好き勝手にやられてしまうのは問題ですね。一方で55 年程度の周期をもつコンドラチェフ・サイクルは公共投資によって引き起こされていると言われています。つまり道路や橋が大体55年ぐらいで老朽化して作り変えている。このままでは設備を維持するだけの捨て金になってしまう。国土交通省が将来の展望を持った都市計画を描いてスマートシティに投資することが必要だと思います。
この先の日本は2030年に65歳以上が3割ぐらい占めるようになり、担税力のある人からお金がとれなくなってきます。しかも、1960年頃の高度経済成長期に作った都市計画を維持していくとしたら破綻しますよね。これからの時代にあったスマートシティを考えていく必要があると思います。

「若い人にお金をつけること」

栗原 シンプルに考えるとそうゆうことだと思います。若い人が意思決定の場に必要だと思っている。若い人が活躍して儲けてもらい税金を得るといった好循環が必要。スマートシティも若い人の声を集めていくことも大切だと思う。テクノロジーや箱ものから次の議論に移っていくと良いと思う。大阪の財政がひっ迫してしまった原因として高度経済成長期に作った箱モノの維持がありました。今では、まだ医療体制について手薄な点は否めませんが教育は改善できたと思います。やはりお金が無ければできないことがあると痛感しました。

二本松 背景がとてもよく分かりました。やはり、お金が無ければ事業もできない訳ですし、お金によって事業が歪んでくることもある。収益源の建付けをしっかりしていくことが大切だと思いました。国交省もスマートシティに取り組んで財源の確保もしておりますし、設備の維持だけで無く「若い人にお金をつける」といった発想を持つことで、日本の国内総生産を高めて税収の増加につなげたいですね。

栗原 そのために、ぜひ今後も協力しあっていきましょう。

二本松 こちらこそ、よろしくお願いします。ありがとうございました。


データプライバシーに関するトレンドや今後の動きが気になる方は、本日対談させて頂いた栗原さんが運営するPrivacy by Design lab.へどうぞ。
ご興味ある方はぜひご参加ください。

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投稿者: 二本松 哲也

SPbD:Security&Privacy by Design Founder ー OWASP Member ー ITは人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させること ー 競争原理から共創原理へ