アルジャジーラによると、ポケベルがサプライチェーンの途中で改ざんされ、「命令により爆発するように配線されていた」これによりポケベルが依存する無線ネットワークがハッキングされ、信号が送られた可能性があると示唆している。
2024年9月17日、レバノン全土で通信用のポケベルが同時に爆発し、ヒズボラの戦闘員や医療従事者を含む2,750人が負傷した。 – アルジャジーラ
— 二本松哲也 (@t_nihonmatsu) September 18, 2024
How did Hezbollah’s pagers explode in Lebanon?https://t.co/wxjGilYDfZ
爆発の原因
爆発の原因は、おそらくバッテリー設計に起因する内部ショートによって過放電が引き起こされ、その結果、ポケベルのリチウム電池が過熱し、熱暴走と呼ばれるプロセスが開始されたと考えられます。これにより、化学連鎖反応が進行し、温度がさらに上昇して最終的にバッテリーが爆発したと推測されます。
例えば、2013年1月7日にボストン・ロガン国際空港で、日本航空の787-8が出火しました。これにより一時的にドリームライナーの運行が停止され、バッテリー設計の見直しが行われました。米運輸安全委員会(NTSB)によればバッテリー内部でのショートや熱暴走が原因とされています。
その後、Sky News Arabicnによるヒズボラとの取材で、遠隔から信号を送り改造した電池を熱暴走させることで、起爆させる高度な技術が使用されたとされています。 この作戦は、電池を物理的に改造して爆薬(PETN)を組み込み、さらにサイバー攻撃で起爆信号を送り、バッテリーの熱暴走によりPETNの起爆温度(摂氏 215 度 )まで上昇させることで起爆する仕組みが含まれていました。PETNは非常に小さな量でも強力な爆発を引き起こせるため電池に仕込むことができます。
通常、リチウムイオン電池は加熱すると燃焼や小規模な爆発を引き起こしますが、PETNを仕込むことで、その破壊力が格段に増すという点で、これまでの技術と比較して非常に洗練された手法です。
爆発に使用されたポケベルの製造元
なお、レバノンの治安当局高官はロイターに対し、ヒズボラが台湾のゴールド・アポロ社にポケベル5000台を発注したと語ったが、同社の創業者Hsu Ching-Kuang氏は、レバノンで火曜日に起きた爆発に使用されたポケベルを製造していないと声明を発表しています。
一部では、アポロ AR-924 ポケベルの製造元であるゴールド・アポロ社の中東代理店に侵入し、内部のバッテリーをリチウム電池とプラスチック爆薬に交換したという噂が広まっています。
BAC Consulting KFT
ゴールド・アポロ社のステートメントによれば、AR-924ポケベルの設計や製造にはゴールド・アポロ社が直接関与していないこと、代わりに、ハンガリーのブダペストに拠点を置くBAC Consulting KFTというパートナーがこれを担当している模様です。
CEO of Gold Apollo, Hsu Ching-Kuang denied manufacturing the explosive pager. When asked abt AR-924, he said “it is produced & sold by BAC…we only provide brand trademark authorisation & have no involvement in design or manufacturing of this product.” See my exchange w him. pic.twitter.com/eb6k65oyKl
— Tingting Liu 劉亭廷 (@tingtingliuTVBS) September 18, 2024
ハンガリーのブダペストに拠点を置くBAC Consulting KFTの会社概要について 会社登記はされている模様です。
企業名・所在地: BAC Consulting Kft.・ブダペストSzőnyi út 33/A
税番号と会社登記番号:
- 税番号(Adószám): 27859845-2-42
- 会社登記番号(Cégjegyzékszám): 01-09-400938
設立日: 2022年5月19日
活動内容: 7022 – 経営コンサルティングおよびその他の経営指導
オーナー(Tulajdonos): Bársony-Arcidiacono Cristiana Rosaria
代表取締役(Ügyvezető): Bársony-Arcidiacono Cristiana Rosaria
受取代理人(Kézbesítési megbízott): Bársony-Arcidiacono Cristiana Rosaria
項目 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
総収入 | 0.00 | 263,337,000.00 | 214,986,000.00 |
総支出 | 0.00 | 257,368,000.00 | 196,309,000.00 |
税引後利益 | 0.00 | 5,766,000.00 | 18,286,000.00 |
自己資本 | 0.00 | 8,792,000.00 | 27,078,000.00 |
投資資産 | 0.00 | 192,000.00 | 118,000.00 |
短期負債 | 0.00 | 455,000.00 | 86,320,000.00 |
長期負債 | 0.00 | 3,674,000.00 | 954,000.00 |
債権 | 0.00 | 980,000.00 | 2,080,000.00 |
一人当たりの平均給与 | 0.00 | 0.00 | 0.00 |
事業年度における平均従業員数 | 0.00 | 1.00 | 1.00 |
しかし、BAC Consulting KFTの財務概要は不自然です。 収入の金額が2億フォリント(HUF)以上であるにもかかわらず、従業員数が1名となっています。一般的には、この規模の収益を1人で管理・運営するのは非現実的です。通常、これほどの収入を得るためには、複数の従業員が必要とされるはずです。
2022年および2023年の平均従業員数は1人とされていますが、平均給与が「0 HUF」となっているのは不自然です。従業員がいる場合、通常は給与が発生します。給与データが記載されていないか、他の形で報酬が支払われている可能性がありますが、現時点ではこの点は不明です。
2022年の短期負債は455,000 HUFですが、2023年には86,320,000 HUFと急増しています。この急増は、大規模な借り入れや緊急的な支払い義務が発生した可能性を示していますが、これほど大幅な増加は異常です。
2022年の長期負債が3,674,000 HUFから2023年には954,000 HUFに大幅に減少しています。短期負債の増加に対して長期負債が急減している点は不自然であり、資金調達や債務の返済に何らかの大きな変更があった可能性が考えられます。
アルジャジーラによれば、ゴールド・アポロ社はBAC Consultingからの送金に「非常に奇妙な」問題があったとしています。送金が中東から行われた点も含め、不正な資金移動に関連する可能性を示唆しています。BAC Consultingは、こうした目的で使われる「ペーパーカンパニー」である可能性があります。
つまり、ヒズボラがイスラエルの追跡を避けるためにポケベルを使用していたと報じられているため、BAC Consultingがこのような機器を提供するために架空の会社として設立された可能性があります。軍事や諜報活動の正体を隠すために架空の企業を作り、取引を行ったのかもしれません。
BAC Consulting KFTの創業者
BAC Consulting KFTの創業者 Bársony-Arcidiacono Cristiana Rosariaは、2009年 – 2014年ロンドン大学SOAS 修士課程を卒業しており、Foundation for Post-Conflict Development (NYC) 国連代表、Working Group Business for Peace, UN Global COMPACT (NYC)メンバーなど要職を歴任している。
現在のBársony-Arcidiacono Cristiana Rosaria氏は、2012年1月よりフリーランスの科学開発戦略顧問として活動を開始し、2019年2月からはBAC Consulting KFTのCEOを務めています。また、2021年11月から現在に至るまで、欧州委員会(EC)の 評価専門家 としても従事しています。
例えばBársony-Arcidiacono Cristiana Rosaria氏の論文『A Review of Risk Reduction Strategies for Animals in Adverse Events: Brazil and China』は、WSPA(世界動物保護協会)に向けて、自然災害時に動物を保護するためのリスク削減戦略について分析を行なっています。
国際的な経験と役割
EU、アフリカ、中東・アフリカ地域(MEA)で数年にわたり国際的な経験を積み、以下のようなさまざまな役割を担ってきました。
- 主要国際機関(ベンチャーキャピタル、IAEA、UNESCO、CNRS、ECなど)への戦略アドバイザー
- 革新的ソリューションに対するビジネスデベロッパー&分析担当
- 持続可能な開発目標(SDGs)、水、エネルギー、レジリエンス(緩和、適応)、能力構築、複雑な緊急事態対応、デジタル化(AI、ブロックチェーン、ICT)に関連する人道的経済の分野で活動
環境・社会的活動への献身
発展途上国や脆弱な国々のために環境・社会的課題を支援することに尽力しています。
- Earth Child Institute(ニューヨーク)の理事
- サヘル地域の水問題への取り組み「More Water for the Sahel」(パリ)の理事
- 紛争後の開発のための財団(ニューヨーク)の国連代表
- 国連グローバルコンパクト「ビジネス・フォー・ピース」作業部会のメンバーとして活動
専門知識と主な成果
国際的な戦略的専門家として、以下の分野で活動しています。
- 国際関係と能力構築
- 天然資源の管理
- グリーンおよびデジタルトランジション(AI、ブロックチェーン、サイバーセキュリティ)
- ビジネス開発(イノベーション)
主な成果としては、以下が挙げられます。
- 水と気候変動の緩和・適応管理(UNESCO)
- 政治経済および環境に関する戦略的アドバイス(VC、世界銀行、CNRS)
- 困難な状況下でのチームリーダーおよびコーディネーター(紛争地域での活動)
- 高影響因子のある科学ジャーナルおよび雑誌(PRL、JPhysB、IAEA)での論文執筆、報告書作成
- ノーベル平和賞を受賞した2つの機関での活動への献身
アプローチとツール
- 知的な反逆、創造性、戦略的共感
- システムリーダーシップによる明確なビジョンとインスピレーションの提供
- 持続可能な開発デザイン、組織デザイン、変革と適応管理、組織の混沌の管理
- クリティカル思考、システム思考、デザイン思考、ベンチャー思考
- アースオブザベーションビッグデータ、ICT、モニタリングと評価、モデリング、AIによるビジネスインテリジェンス
- 現代言語とレトリック
このようなBársony-Arcidiacono Cristiana Rosaria氏が実在する人物であるかどうか、AP通信はLinkedInのページを通じて連絡を試みましたが、彼女やBACと爆発したポケベルとの関連性を確認することはできなかったようです。
ポケベルに続きトランシーバーが相次いで爆発
ポケベルに続き、シーア派の軍事組織ヒズボラが使用していたトランシーバーが相次いで爆発した模様です。メーカーは、日本製のICOM IC-V82 VHFと報じられています。 但し、日本は、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)に基づいて軍事転用が可能な製品や技術の輸出は厳しく制限されてます。
こちらのIC-V82モデルは、ICOMより生産終了モデル(生産・在庫なし)とされており、ICOMの偽造品(模造品)として注意を呼びかけるアナウンスがされています。https://t.co/g6kDen6R1f
— 二本松哲也 (@t_nihonmatsu) September 19, 2024
ヒズボラの機器爆発、日本のアイコム製トランシーバーかhttps://t.co/nejTzPNVaA
日本製のICOM IC-V82
なお、シーア派の軍事組織ヒズボラが使用していたトランシーバーとして報じられていた、日本製のICOM IC-V82 VHFは、ICOMより生産終了モデル(生産・在庫なし)とされており、アイコムの偽造品(模造品)として注意を呼びかけるアナウンスがされています。
一方、ICOMはイスラエルのF. Fishels Ltd.や中国のRongtec International Electronics Limitedなど、グローバルに販売代理店を展開しているため、こうしたサプライチェーンリスクへの対応が必要と考えられます。
ICOMから一部報道について(第二報)がリリースされました。 2004年から2014年10月にかけて中東を含む海外向けに生産・出荷していたが、約10年前に終売しており、偽造品防止のためのホログラムシールが貼付されておらず、当社から出荷した製品かどうかは確認できません。
ICOMから一部報道について(第三報)がリリースされました。 レバノンの通信大臣によれば、爆発した無線機に記載された型番のものは製造元(当社)が製造を終了している。また、他国から同型番の無線機の模倣品が持ち込まれていることを確実に把握している模様です。
サプライチェーンリスク
短期間で数千台の機器に爆発物を仕込むというのは非常に難しいシナリオに思えます。しかし、今回のケースにおいて考えられる可能性としては、ICOM IC-V82がすでに2008年に製造中止となっている点や、偽造品が市場に出回っていることが関連しているかもしれません。
偽造品や模造品が流通している中で、長期間にわたり周到な準備が行われ、攻撃者がサプライチェーンに介入し、爆発物を仕込んだ模造品を用意していた可能性も考えられます。特に、ヒズボラのような軍事組織は大量に機器を調達しているため、特定のルートで定期的に購入している可能性が高くなります。
攻撃者はそのサプライチェーンを事前に把握し、ペーパーカンパニーなどを利用して不正な製品を送り込む準備を進めていた可能性も排除できません。 そのため、タイミングや経路に関しては、さらに詳しい調査が必要ですが、サプライチェーン全体を通じた攻撃の可能性は十分に考えらます。
【危険】停泊中の船の貨物が大爆発の瞬間…リチウム電池や危険物が温度上昇で爆発か 衝撃波が4キロ先に到達 中国(2024/08/15)
輸出先は不明ですが、このリチウム電池が日本に輸入され、爆発していた場合のリスクを認識する必要があると思います。
サイバーテロの時代へ
今後は、製造元の分からないモバイルバッテリーなど、今後これがサイバーテロに悪用される可能性も否定できません。スマートフォンなどで用いられるリチウムイオン電池は、爆発のリスクがある危険物を携帯しているという意識を持つべきかもしれません。
サイバーテロの時代へ
— 二本松哲也 (@t_nihonmatsu) September 19, 2024
誰もがテキストメッセージを送るのも、電話をかけるのも、ノートパソコンを開くのも怖い。これは混乱、恐怖、被害妄想へとつながっている。
『これが新しいタイプの戦争になる。これが彼らの戦い方。これがテロの新たな常識なのだ。』https://t.co/doZAnT9K2D